福岡高等裁判所宮崎支部 昭和31年(う)232号 判決 1956年7月10日
主文
原判決を破棄する。
本件を原裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人村田継男提出の控訴趣意書記載のとおりである。
職権をもつて調査するに、原審第三回ないし第八回公判調書等の記載によれば、原審における弁論は昭和三〇年一〇月二〇日一旦終結されたが、その後判決宣告期日として指定された昭和三一年一月二五日に至り、右弁論終結後における被告人と被害者Aとの間の和解交渉の顛末を立証するための証人B、同C両名の尋問を求めるため弁護人から弁論再開の申立があり、同期日において弁論再開の上、右証人両名を取り調べる旨の証拠決行が行われ、同年二月二三日第七回公判期日に証人Bの取調並びに検察官の請求にかかる被告人の前科調書についての証拠調が施行され、さきになされた証人Cについての証拠決定が取消されて、弁論が終結され、判決宣告期日は同年三月一日午後一時と指定告知され、原判決は右の宣告期日に宣告されたものであることが明かである。
然るに本件記録編綴の判決書に記載してある日附は昭和三一年一月二五日である。そして、判決書は刑訴規則第五三条第五八条等に則つて作成されるものであつて、判決書の日附はその作成の日の表示と解せられ、本件記録上原判決書の日附がその作成の日以外の日の表示と解すべき特段の事由も存しないのであるから、原判決書はその日附の日たる昭和三一年一月二五日に作成されたものと解するのほかはない。
して見れば、原判決書は前記弁論再開当日の作成にかかり、原審は弁論再開後の弁論はすべて判断の外におき、全くこれを不問に付して判決したものと解せざるをえない。
<要旨>およそ、判決が口頭弁論に基くことを要することは、刑訴第四三条の規定に明かなところであり、いやしく</要旨>も口頭弁論に現われた資料は、判決をするにあたり、判断の結果の採否いかんはともかくとして、すべて判断の対象とすることを要し、その一部を判断の対象から任意に除外してこれを全く不問に付することは訴訟手続上許されないところであると解するのが相当であつて、右のように再開後の口頭弁論に現われた資料について、これを判断の対象としたものと認めうる余地のない原判決には、訴訟手続の法令に違反した違法があるものといわなければならない。そして、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明かである場合にあたるものと解せられるので、原判決は弁護人の論旨に対する判断をまつまでもなく、この点において破棄を免かれない。
よつて、刑訴第三七九条第三九二条第二項第三九七条により原判決を破棄し、刑訴第四〇〇条本文に従い、本件を原裁判所に差し戻すべきものとする。
以上の理由により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下川久市 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)